「神崎(かんざき)ーいい加減さ、顔あげろよ…」
「無理」
…本当に無理かもしれない。
そう思いながら私は教室の一番端にある自分の席に座って、
机びうつぶせていた。
紫蝶
三羽目の友蝶?
今私が蝶であったならいつでも一緒にいられたのに
「……ったく、顔あげたかと思えば…なんなんだよ!俺様に向かってその面は!!」
この口の悪い男は私のクラスメイトの刹那斬人(せつなきりと)。
中学入学から現在までずーーーーーっと同じクラスで…だからといって最初からこうやって話していたわけじゃない。
刹那と私が初めて会話を交わしたのは、出逢って二年目の春の中学二年生のときだった。
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『…神崎(かみざき)とまた同じクラスかよ』
『…私の苗字はかみざきじゃなくて、か・ん・ざ・き!!』
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最初がこんなんだったから、変な奴としか思わなかったけれど、それから刹那と私は話すようになり、けれど中学の三年間はあっという間に過ぎ、中学を卒業。
高校にあがったら、もう彼とは話すことはないと思っていたら偶然にも高校も一緒。クラスも一緒。
そんなこともあって、今では何でも話せる仲になっていた。
「…もういいもん……」
私がそう言うと、彼は少し黙り込んだ後、「じゃあ今日付き合えよ」と言って私のそばから離れ、男子の群れの中へ入って行った。
…付き合えよって……なんなのよ…
そう思いながら再び机にうつぶせようとしたところを、タイミングよく私のもとへ来た友達が邪魔をした。
「まぁ〜た斬人と話してたねぇ!ラブラブでいいでちゅね〜!!」
そう言って親友の佐藤鈴(さとうすず)が、私の髪をくしゃくしゃっとする。
「だから…刹那はそういうんじゃなくて!」
「はいはぁい!隠さなくていいからねぇ〜?」
「あんたねぇ…」
鈴と睨みあっていると、のう一人の親友の橋本砂夜(はしもとさや)が私と鈴の間を割ってきた。
「まぁまぁ、鈴もそのくらいにしてあげなよ。違うって言ってることだしさ。ほらっ夢香も落ち着いて?」
砂夜が笑顔で私を見る。
私は「了解…」と小さく言いながら、もう一度鈴を睨んでやると、彼女は待ってましたと言わんばかりに私と砂夜にむかって変顔をした。
私達はそれを見て爆笑してしまい、他の人が鬱陶しそうにしているにもかかわらず、三人でしばらくの間笑いっぱなしだった。
そんな馬鹿なことをやっていると、あっという間に時間が過ぎてしまい、もう下校時刻になっていた。
「いっつも思ってたんだけどさ、夢香と斬人って結構お似合いのカップルになれると思うんだけどなぁ」
鞄に荷物を詰め終えて、席から立とうとした時だった。振り返ると鈴がいて、そう言った。
「何よーまたその話ぃ?」
けれど私が振り返ると、さっきの鈴とは違い、何故か真剣な目をしていた。
その様子に少し驚きつつも話を続けると、今度は小さいで彼女は言った。
「夢香って、彼氏いないよね?」
「…うん」
本当は、私には彼氏がいる。
でもその彼氏は、今が旬の売れっ子アイドルということもあって、その存在は誰にも言っていなかった。
別にも話しても大丈夫な気がしたけれど…颯とは喧嘩中だし。
そんなことを考えていると、鈴がさらに真剣な顔をして私に言う。
「斬人ってさ、結構イケメンだし、みんなに優しいじゃん?でも男子にならともかく、女子には絶対に自分からは話しかけないわけ。なのに夢香だけにはいつも話しかけて、それにあんな楽しそうに喋って…って、夢香?聞いてる?」
「うん。でもアイツ、イケメンには見えないけどねぇ〜?」
「そっそこは突っ込むとこじゃないでしょ!イケメンかどうかはどうでもいいの!私が言いたいことはその後!」
「えっと…つまり刹那は、女の子から話かけてほしいってこと?」
私の答えを聞くと、鈴はあきれてしまった。
「夢香…自分が美人なのは、わかってるよ……ね…?」
「え?」
「だーかーらー!夢香はそんじょそこらの人間より、遙かに美人だってこと自覚してるよねって言ってるの!」
「鈴ー何言ってんの〜?鈴モテるじゃん!昨日だって隣のクラスの男子に告られてたし♪たしか佐々木くんだっけ?」
なんて言うと、鈴に「アホか!」と一発殴られた。
「いったー」と言う私に、彼女は謝りもせず話を続ける。
「……私が告られるのは、周りに男がいないから。」
「男…?」
「……………まだ、気づきませんか?」
「ん〜……」
鈴は毎日のように誰かに告白されていて、私はというと、昔はよくあったりもしたけれど、でもいつからかぴたりとなくなった。
まぁ私には彼氏もいるし、私にとっても相手の人にとってもそれが一番いいのだけれど…
しかし、それがいったいどう関係しているというのだろうか?
「まぁいいや。とにかく、気をつけなよ?一応忠告しとくからね?」
「忠告?」
「そう。忠告…じゃーまた明日ね〜!」
そう言い残して鈴は教室から出ていってしまった。
………何で忠告?
まぁ気にすることないか。そう思いながら私も教室から出て、靴箱に向かい、校門をくぐろうとした。
すると、一人の男と目があった。
「刹那…?」
なんでまだこんなところにいるの?と言おうとした瞬間、
「あ!!思い出した!!」
「…お前、俺様との約束を忘れるなんていい度胸してんじゃねぇか。ほら、行くぞ。」
刹那は強引に私の手を引っ張って学校から出た。
すると、あちこちから女の子がひそひそと話し出す。
「うっそ…彼女……?」
「最悪ー!好きだったのになぁ…」
刹那のどこがいいんだろう?
かっこいいか?
そう思いながら刹那の耳もとで「あんたみたいな奴でもモテるんだね?」と言った。
すると刹那は驚いたのか、体をビクッとさせて、いきなり声をあげた。
「ばっばか!」
「何でばかになるのよ!」
私も負けまいと大声で反撃(してみる)。
「みっみみみ耳元で…んなこと囁くなよ!」
「囁いてないし!」
「まったく…今さら何言い出すんだよ」
そう言いながら彼は顔を真っ赤に染める。
「お前…俺がモテないように見えんのか?
「うん。まぁ今の状況からするとモテるみたいだけどね?」
「お前な…………誰のために毎日朝早く起きてキメてきてると思ってんだよ…」
「…?」
私は
刹那が好き。
口は悪いけど、結構いい奴で、おもしろくて。
だから、刹那もそう思ってくれていると信じていた。
『気をつけなよ?』
彼に腕を引っ張られながら、私の頭の中でふいに鈴の言葉が響いた。
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