「瑞希」
そうあたしの名前を呼んでくれるアナタ
「ばか」
そうやっていつもあたしをいじめるアナタ
「すき」
そう素直に言えたらよかったの?
きみがすき
―――ピピピピ…
目覚まし時計が音をあげた。
バンッっと時計を叩きその音を止めて、あたしは一瞬静止する。
「…うあ〜!!!遅刻だああ〜!!!」
あたし、福山瑞希の朝はいつもと同じで騒がしく始まるのであった。
ドタドタと2階からリビングへ降りていき、パンを頬張りながら髪の毛をセットし、急いで服を着替える。
毎朝遅刻ギリギリの時間に起きるあたし。
いつの間にか着替えを30秒で済ます技も覚えてしまった。
まぁ、そんな技を披露できるのは体育の授業の前ぐらいだけど。
*******
―ガラッ
「おっはよ〜!」
「瑞希おっそ〜い!」
親友の楓が頬を膨らませてそう言った。
楓はとにかく可愛くて、他の人がすると「ぶりっこ」とか言われる事でも、楓がすると自然で可愛く見える。
もちろんそんな楓はクラスで一番モテたりする。
「瑞希、おはよ」
「…はよ」
―――水島博樹。
あたしの、好きな人。
博樹とは中学からの仲で、高校に入ってから「博樹」って名前で呼ぶようになった。
あたしは名前を呼ぶだけでも精一杯。
もうすぐ2月14日はやってくる。
楓は、博樹に告れって言ってくるけど、やっぱりあたしには無理だと思う。
博樹はジャニーズ並の男前。
あいつの隣には、楓みたいに可愛い子が似合ってる…
「席につけ〜」
ハゲ散らかした担任がそう言いながら教室に入ってきた。
このハゲは、遅刻の多いあたしに目をつけてやがる。
このハゲが!と、心の中であたしは怒鳴った。
でもまあ、博樹と挨拶できたし、許してやろう。
一番前の席に座った博樹を、一番後ろにある自分の席から見つめた。
日々の日課、博樹観察である。
「瑞希、やっぱチョコは渡さなきゃ」
楓が小さい声で言う。
「だって、あたしそんな勇気ないし…」
「義理だけど…とか言って渡せばいいじゃん?」
「ええ、嘘つきたくない!」
「そこ、うるさいぞ〜!」
ハゲがあたしたちに怒鳴った。
それを見て、あたしは楓と目を合わせてキモっ、と笑った。
***********
「チョコ、くれよ」
休み時間に、楓と話していたら博樹がそう言った。
楓は博樹に聞き返す。
「チョコ?」
「そう、チョコ。2組の奴とチョコの数勝負すっから、よろしくな」
博樹はニコッと笑った。
あたしは博樹の笑顔を見て、胸がきゅう、と苦しくなった。
「まあ〜余ったらね(笑)」
「瑞希は?くれよ?」
ああ、博樹があたしの方見て話しかけてる…!
どうしよ、ヤバイ、あたし絶対顔赤い!
「あ、うん」
「ありがと」
うわあ…
ありがとう?博樹があたしにありがとう?
…ありがとうはこっちの台詞。
これで自然にチョコ渡せるよね。
うふ、ふふふ、うふ。
あたしはニヤけようとする顔を必死におさえた。
**********
その日、学校が終わったあとに近くのデパートへチョコの材料を買いに行った。
これでも、料理には自信がある。
博樹、食べてくれるかな?
少し多めに買ったチョコが入っている袋を見て、あたしは小さく笑った。
あ、そうだ、ラッピングもしなきゃ!
…バレンタインデーの前日は、忙しくなりそうだなあ…
そう思って、近くにあった椅子に座って静かに目を閉じた。
恋には教科書なんてないから難しくって
嫉妬とか、黒いもので埋め尽くされたこの感情が
なければいいのに、なんて思うことだってあった
変らない日常、
変らないあいつとの距離。
きみがすき
きみがすき
きみがすき
何度心の中で叫んだだろう
それでもまだ、足りなくて
きみがすき
きみがすき
きみがすき
伝えたい
そう思うよ?
きみに、すきって。
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